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2025年07月15日

DevOpsとは何か?アジャイル開発との違い

技術情報
DevOpsとは何か?アジャイル開発との違い
現代のビジネス環境は、目まぐるしい変化と競争の激化により、企業にソフトウェア開発の高速化と品質向上を同時に求めています。この要求に応えるための強力な手法として、アジャイル開発とDevOpsが注目を集めています。

アジャイル開発がソフトウェアを迅速に「作る」ための手法であるなら、DevOpsはそれを継続的に「提供し、運用し、改善する」ための文化、プラクティス、そしてツール群を包含します。両者は密接に連携し、まるで車の両輪のように機能することで、企業は市場の変化にスピーディに対応し、競争優位性を確立することが可能になります。

まず、DevOpsの基本的な概念と、それと混同されやすいアジャイル開発との関係性を明確にすることから始めましょう。

DevOpsとは何か?

DevOpsの定義と概要

DevOpsが現代のソフトウェア開発において不可欠なものとなった背景には、技術的な進化、ビジネス環境の変化、そして従来の開発・運用モデルの限界といった、いくつかの重要な要因が絡み合っています。

1. 技術的な進化と複雑性の増大

・ソフトウェアの複雑化
近年のソフトウェアは、かつてないほど複雑化しています。マイクロサービスアーキテクチャの普及、クラウドネイティブ技術の利用、API連携の増加などにより、システムは多数のコンポーネントが相互に依存する構造となり、開発・運用が困難になっています。
・開発サイクルの加速
ビジネスのスピードが加速するにつれ、ソフトウェアのリリースサイクルも短縮化を求められるようになりました。アジャイル開発の普及により、短いイテレーションで頻繁にリリースを行う必要が生じています。
・インフラストラクチャの多様化
従来のオンプレミス環境に加えて、クラウド環境、ハイブリッドクラウド環境など、インフラストラクチャの選択肢が増え、それぞれ異なる運用管理が必要となっています。

2. ビジネス環境の変化と要求の高まり

・市場の変化への迅速な対応
現代のビジネス環境は、顧客のニーズや競合の状況が目まぐるしく変化します。企業は、これらの変化に迅速に対応し、新しい機能やサービスをいち早く市場に投入する必要に迫られています。
・顧客体験の重要性
顧客は、高品質で安定したソフトウェアを期待しており、その期待に応えられない場合、競合他社に乗り換えてしまう可能性があります。顧客満足度を高めるためには、ソフトウェアの品質と信頼性が不可欠です。
・ビジネスとITの連携強化
ソフトウェアがビジネスの中核となるにつれ、ビジネス部門とIT部門の連携がますます重要になっています。DevOpsは、この連携を強化し、ビジネス目標の達成に貢献します。

3. 従来の開発・運用モデルの限界

・ウォーターフォールモデルの硬直性
従来のウォーターフォールモデルでは、開発が完了するまで運用チームが関与せず、リリース時に多くの問題が発生しやすかった。また、途中で要件変更があった場合、柔軟に対応することが困難でした。
・開発と運用のサイロ化
開発チームと運用チームが別々に存在し、情報共有や協力が不足していたため、リリース遅延や品質問題が発生しやすかった。「開発」がソフトウェアを「作る」ことに集中し、「運用」がそれを「維持する」ことに集中していたため、両者の間に溝が生まれていました。
・手作業による非効率性
テストやデプロイなどの作業を手作業で行っていたため、時間がかかり、人的ミスも発生しやすかった。自動化の遅れが、ソフトウェアのリリースサイクルを遅らせる要因となっていました。
これらの背景から、ソフトウェア開発ライフサイクル全体を効率化し、迅速かつ高品質なソフトウェアを継続的に提供するために、DevOpsという考え方が生まれ、広く普及するに至りました。DevOpsは、単なるツールや手法ではなく、組織文化、プロセス、そしてチーム間の協調を重視するものであり、現代のソフトウェア開発において欠かせないものとなっています。

アジャイル開発の基本概念

アジャイル開発は、2001年に提唱された「アジャイルソフトウェア開発宣言」にその理念が集約されています。その基本原則は以下の通りです。

・プロセスやツールよりも個人と対話を重視する。
・包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを重視する。
・契約交渉よりも顧客との協調を重視する。
・計画に従うことよりも変化への対応を重視する。

アジャイル開発は、数週間程度の短い期間(イテレーションやスプリントと呼ばれる)で開発とテストを繰り返し、その都度動くソフトウェアとして成果物を生み出します。顧客からのフィードバックを頻繁に受け入れ、開発の方向性を柔軟に調整することで、変化する要求に迅速に対応し、最終的なビジネス価値を最大化することを目指します。スクラムやXP(エクストリーム・プログラミング)などが代表的なフレームワークです。

DevOpsとアジャイル開発の違い

アジャイル開発とDevOpsはしばしば同じ文脈で語られますが、その焦点には明確な違いがあります。

・アジャイル開発
主に「開発プロセス」に焦点を当てます。短いイテレーションを通じて、顧客のニーズに合致した「動くソフトウェアをいかに効率的に作るか」に主眼を置きます。これは、開発チーム内のコラボレーションを強化し、変化に柔軟に対応するためのフレームワークです。
・DevOps
ソフトウェアの「ライフサイクル全体」、特に「開発」と「運用」の間のギャップを埋めることに焦点を当てます。アジャイル開発で作られたソフトウェアを、いかに迅速に、かつ安定的に本番環境にデプロイし、運用し、フィードバックを得て改善していくか、という「継続的デリバリーと運用」の側面に重きを置きます。

DevOpsは、アジャイル開発の価値を最大限に引き出すための「手段」であり、「進化形」と位置付けられます。アジャイルが「変化への対応」を提唱するならば、DevOpsはその変化を本番環境へ「継続的かつ安全にデリバリーする」ことを可能にします。アジャイル開発で培われた「短いサイクルでの開発」という成果を、デプロイと運用にまで広げ、ビジネス価値提供のスピードを劇的に向上させるのがDevOpsの役割なのです。

DevOpsにおける重要な原則

DevOpsを成功させるためには、単にツールを導入するだけでなく、組織文化、プロセス、そしてチームの働き方を変革する必要があります。その根底にあるのが、一般的に「CALMS」と呼ばれる以下の重要な原則です。

1. Culture (文化)

DevOpsの成功において、最も重要な要素の一つが文化です。従来の開発と運用がサイロ化されていた状態から脱却し、お互いを尊重し、協力し合う文化を醸成する必要があります。

・チーム間の信頼と協力
開発チームと運用チームが、互いの専門知識を尊重し、協力して共通の目標を達成しようとする姿勢が重要です。
・責任の共有
開発から運用までの全工程に対して、チーム全体が責任を持ち、問題が発生した際には互いに助け合い、解決を目指します。
・心理的安全性
チームメンバーが安心して意見を述べたり、新しいことに挑戦したりできる環境を築きます。失敗を恐れず、そこから学び、改善につなげる文化が重要です。
・壁を取り払う
開発と運用の間にある物理的、心理的な壁を取り払い、頻繁なコミュニケーションと協調を促します。

2. Automation (自動化)

DevOpsでは、ソフトウェア開発ライフサイクル全体にわたる様々な作業を自動化することで、効率化、迅速化、そして人的ミスの削減を目指します。

・CI/CDパイプライン
ビルド、テスト、デプロイなどのプロセスを自動化し、迅速かつ頻繁なリリースを実現します。
・インフラストラクチャのコード化 (IaC)
サーバーやネットワークなどのインフラストラクチャをコードで管理し、自動で構築・変更できるようにします。
・自動テスト
ユニットテスト、結合テスト、E2Eテストなどを自動化し、ソフトウェアの品質を継続的に検証します。
・構成管理
サーバーの設定を自動化し、一貫性を保ちます。

3. Lean (リーン)

リーンとは、トヨタ生産方式に代表される考え方で、ムダを排除し、価値を生み出す活動に集中することを意味します。DevOpsにおいても、このリーン原則を適用し、プロセスを最適化することで、価値提供までのリードタイムを短縮します。

・ムダの排除
手作業、待ち時間、過剰なドキュメント作成など、価値を生み出さない活動を特定し、排除します。
・小さなバッチサイズ
作業を小さな単位に分割し、頻繁にリリースすることで、フィードバックを迅速に得て、改善につなげます。
・継続的改善
定期的にプロセスを見直し、改善点を見つけて、継続的に改善を行います。

4. Measurement (測定)

DevOpsの取り組みがうまくいっているかどうかを判断するためには、様々な指標を測定し、データに基づいて改善を進めることが重要です。

・パフォーマンス指標
デプロイ頻度、リードタイム、平均修復時間 (MTTR)、変更失敗率などを測定します。
・品質指標
バグの数、テストカバレッジ、顧客からのフィードバックなどを測定します。
・ビジネス指標
顧客満足度、売上、コンバージョン率などを測定します。
・ダッシュボード
測定した指標を可視化し、チーム全体で共有することで、状況を把握しやすくし、改善点を特定しやすくします。

5. Sharing (共有)

DevOpsでは、チーム間の情報共有と知識共有が非常に重要です。開発チームと運用チームだけでなく、関係するすべてのチームが積極的に情報交換することで、問題解決を迅速化し、組織全体の学習能力を高めます。

・透明性の確保
プロセス、進捗状況、問題点などをチーム全体で共有します。
・ドキュメントの共有
設計書、手順書、トラブルシューティングガイドなどのドキュメントを共有し、誰もがアクセスできるようにします。
・ナレッジ共有会
定期的に勉強会や発表会などを開催し、チームメンバー間で知識や経験を共有します。
・フィードバックの共有
顧客からのフィードバックだけでなく、チームメンバー間のフィードバックも積極的に行い、改善につなげます。

これらの原則は、DevOpsを成功させるための基盤となります。単にツールを導入するだけでなく、これらの原則を理解し、組織全体で実践していくことが重要です。

アジャイル開発の進化とメリット

アジャイル開発の特徴

アジャイル開発は、その柔軟性と適応性により、現代のソフトウェア開発のデファクトスタンダードとなりつつあります。主な特徴は以下の通りです。

・短い開発サイクル(イテレーション/スプリント)
通常1週間から4週間程度の短い期間で、計画、開発、テスト、レビュー、リリース準備までの一連の活動を完結させます。
・変化する要求への柔軟な対応
固定された要件定義に縛られず、開発途中での要求変更にも柔軟に対応し、より市場や顧客のニーズに合致した製品を開発します。
・顧客との密な連携とフィードバック
開発の各イテレーション終了時に、動くソフトウェアを顧客に提示し、早期かつ頻繁にフィードバックを得ることで、認識のずれを最小限に抑えます。
・自己組織化されたクロスファンクショナルチーム
開発、テスト、設計など、多様なスキルを持つメンバーが協力し、自律的に課題解決と意思決定を行うチームを編成します。

短期間でのリリースサイクルの実現

アジャイル開発の導入により、企業はソフトウェアの市場投入までの時間(Time-to-Market)を劇的に短縮できるようになりました。従来のウォーターフォール開発では、数ヶ月から数年かかる大規模なプロジェクト全体を一度に計画・開発し、最後にまとめてリリースするのが一般的でした。このため、計画段階での見込み違いがリリース時の手戻りや品質問題に繋がりやすかったのです。

一方アジャイルでは、機能を小さな単位に分割し、短いサイクルで開発・テスト・リリースを繰り返します。これにより、リスクを小さな塊に分散させ、問題が発生しても早期に発見・修正できるため、全体としての安定性を保ちながら、頻繁に新機能や改善を市場に提供することが可能になります。この「スピーディなリリース」こそが、アジャイル開発の大きなメリットです。

顧客フィードバックの活用法

アジャイル開発の核心は、顧客(またはプロダクトオーナー)との継続的な対話とフィードバックです。

・頻繁なデモとレビュー
各イテレーションの終わりには、開発された動くソフトウェアを顧客にデモし、その場でフィードバックを得ます。これにより、認識のずれを早期に解消し、顧客の期待と合致する製品に近づけていきます。
・ユーザーテストとA/Bテスト
リリースされた機能に対して、実際のユーザーの反応を観察するユーザーテストや、異なるバージョンを比較するA/Bテストなどを実施し、データに基づいた改善を行います。
・フィードバックの迅速な反映
得られたフィードバックは、次のイテレーションの計画に迅速に反映され、開発サイクルが継続的に改善されていきます。このフィードバックループの速さが、アジャイルの強みです。

他の開発手法との比較

・ウォーターフォール開発の限界
計画から実装までを段階的に進めるウォーターフォール開発は、要件が明確で変更が少ないプロジェクトには適していますが、現代のソフトウェア開発のように要件が頻繁に変化する状況では、その硬直性が課題となります。開発終盤での大規模な手戻りや、市場投入の遅延が生じやすいという欠点がありました。
・アジャイルの優位性
アジャイル開発は、変化を前提とし、顧客との対話を重視することで、ウォーターフォール開発の限界を克服します。これにより、単にソフトウェアを「作る」だけでなく、顧客に真の「ビジネス価値」を最大限に提供することに焦点を当てることができます。

まとめ:DevOpsとアジャイル開発、それぞれの役割

現代のビジネスにおいて、企業が目まぐるしく変わる市場で勝ち残るには、新しいサービスや機能を「速く」「質の高く」提供し続けることが不可欠です。この課題に応えるのが、ここまで見てきたアジャイル開発DevOpsという二つの強力な考え方です。

アジャイル開発は、主に「ソフトウェアをどう効率的に作るか」に焦点を当てます。これは、短い期間で少しずつ機能を作り、顧客からのフィードバックをすぐに取り入れながら、より良いものへと柔軟に修正していく、まさに「変化を前提とした開発の進め方」です。これにより、開発の初期段階からビジネス価値の高い「動くソフトウェア」を生み出し、市場投入までの時間を劇的に短縮します。

一方でDevOpsは、「作ったソフトウェアをどう届けて、どう運用し、どう改善し続けるか」に焦点を当てます。これは、開発チームと運用チームが協力し、自動化を最大限に活用することで、アジャイルで開発されたソフトウェアを本番環境へ迅速かつ安定してリリースし、トラブルなく動かし続けるための「組織文化と仕組み」です。さらに、動いているシステムから得られるデータをもとに、次の改善へとつなげる「継続的なフィードバックループ」を回すことで、サービスの品質と速度を継続的に向上させます。

つまり、アジャイル開発が「良いものを素早く作る」ための開発手法であるなら、DevOpsは「作った良いものを安定して、もっと速く、もっと良く顧客に提供し続ける」ための運用と改善の仕組み、そしてそれを支える文化なのです。両者は密接に連携し、まるで車の両輪のように機能することで、企業は市場の変化にスピーディに適応し、顧客に継続的に価値を提供できるようになるのです。

筆者紹介

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