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2022年11月30日

【第5回】MBDによる制御モデルの開発

MBD実践ステップアップガイド
MBD実践ステップアップガイド
開発対象とするシステムによっても異なりますが、一般に製品開発は構想段階、開発段階、量産段階など幾つかの段階に分かれており、それぞれの段階で開発の視点や用いる手法が異なります。実際の適用に当たっては、開発場面に応じた工夫、変更が必要となります。

対象とする製品や開発体制によって大きく異なりますが、ここでは製品の開発段階に応じた制御モデルの開発と評価について解説を試みます。

構想段階

MBDの基本

制御システムを開発するための基本的な制御アルゴリズムを開発する段階を構想段階と考えます。MBDでは制御演算を物理モデルで構成できるよう、制御信号の入出力部分と演算部分を分離することから始めます。

入出力部分は電気信号と物理量の変換処理が行われますが、ハードウェアを直接操作する部分のためC言語で記述されます。OSを含め入出力やメモリ管理等のBSW(Basic Software)注※で行われ、制御モデルはBSWを介してプラントと接続されます。

このことにより、ECUハードウェアやマイコンのアーキテクチャーを意識せず、物理量で制御モデルを作ることができます。

注※ BSWについては次回説明します。
制御モデルの開発
制御モデルは部分的に取り出してシミュレーションを行うことができますので、モデルを設計したその場で演算結果を確認することができます。必用に応じてダミーモデル(スタブモデル)を設定すれば、制御モデルの連続的な動作を視覚的に確認することもできます。MBDの魅力の一つは、作ったその場でシミュレーションにより確認できることです。

開発者は制御モデルの演算結果を一つ一つ確認しながら設計することが出来ますので、設計、評価、修正のサイクルを短時間で回すことができます。このため、作成したモデルの完成度が高く、プログラムのバグや設計ミスによる手戻りが大幅に削減されます。

また、モデル設計にはC言語などのプログラム技術はさほど要求されず、ECUやマイコンなどのハードウェア技術も不要ですので、開発者は制御工学的もしくは物理的な設計に集中できることもメリットとなります。(プラットフォームレス開発)

構想段階での評価方法

構想段階といっても、製品開発につなげるには、開発したアルゴリズムの妥当性や効果の推定を行う必要があります。開発した制御モデルの実現性を確認するためには、開発部分のアルゴリズムだけではなく、制御システム全体の挙動を評価する必要があります。このため制御モデルをECUに組込み、プラントに搭載して実機確認を行わなければなりません。

この段階でECUやプラントを入手することは困難な場合もありますので、類似製品のECUやプラントの改造を行うか、RPEやHILSで代用することも可能です。類似製品のプラットフォームを活用すれば、開発した制御モデル部分のみを置き換えることで、ECUへの制御モデル搭載やHILSの構成変更は比較的容易に行えます。

ECU改造が困難な場合、あるいは新規アルゴリズム検討のためにECUの機能を拡張したい場合は、高性能なマイコンとプログラマブルなI/O機能を搭載し、制御モデルの搭載が可能なRPE (Rapid Prototyping ECU)を用いて評価を行う方法もあります。

また、利用上の制約はありますが、ECU上のプログラムの一部を取り出し、モデルのまま実行可能なバイパス方式のRPEを用いれば、簡単なモデル修正やパラメータの変更を行うことも可能です。
バイパスRPEを使った評価

開発段階

開発段階のモデル開発

開発段階では、完成された制御モデルを次の量産段階に提供するため、できるだけ製品に近い条件で要求通りの動作や性能を実現するよう、制御モデルの修正や各種パラメータの適合を行います。

精度の高い修正や適合を行うための試作品は、必要な時に必要な数量の試作品を用意することができない場合もありますので、効率の良い作業が進められるよう事前の準備が必要です。

HILSでの精密なパラメータ適合は困難ですが、制御モデルに対応したプラントの応答は比較的精度良くシミュレーションできますので、制御モデルの修正や仮適合を行うことで実機評価の事前準備に使用します。

HILSの構築やECU試作には時間もかかり、台数にも制限がありますので、MILSやSILSの活用も考えられますが、HILS相当の機能、性能を有するものを構築することは相当困難です。HILS相当のMILSやSILSを開発するためのシミュレーションプラットフォームを提供しているシミュレータメーカもありますが、技術的にも運用にも専門的なサポートが必用となります。

sPILSや回路シミュレータと組み合わせることで仮想的なHILSを構成する方法もありますが、シミュレーション用コンピュータ性能や開発コスト面、操作性の問題がありますので、導入に当たっては十分な調査と運用計画が必用でしょう。
HILSによる制御モデルの評価

制御パラメータの適合

HILSで実際のシステムと同等の性能を実現することは困難ですので、精度の高い適合はできませんが、ある程度精密なプラントモデルを作ることができれば、実機による適合の前に予備的な適合を行うことができます。

適合には環境条件や運転パターンを含め、所定の条件を作り出す必要がありますが、HILSであれば任意の運転条件の設定が容易であり、且つ、再現性の高い試験が可能となります。また複雑な適合作業を実験計画法に基づき自動化を図る、モデルベース適合も可能となります。

このような事前の適合作業を机上適合、またはオフィスキャリブレーションと言い、実機を使った適合作業の大幅な効率化を行うことができます。

量産段階

開発モデルと量産モデル

開発段階と量産段階の線引きも曖昧な部分が多いですが、ここでは制御システムの機能や性能の実現性が確認されたものを開発モデル、実際のECUに搭載して所望の機能・性能を実現できることが確認されたものを量産モデルとします。

開発段階では開発した制御モデルを実装するため、機能拡張されたECUを使うことが多いかと思いますので、量産段階では浮動小数点から固定小数点への変更、64bitモジュールから32bitモジュールへの変更など、マイコンアーキテクチャーに合わせたモデル変更が必要となります。

こうして作られたモデルをここでは実装モデルとします。また、ECUをプラントに搭載して検証された制御モデルを仕様モデルとします。

量産モデルの評価

開発モデルも量産モデルも検証内容や検証方法に大きな違いはありませんが、開発モデルでは、開発した制御モデル一つ一つの実証を行い、広く製品に応用が出来る基本的なモデルとして知的財産化することが目的であり、量産段階では、開発した制御モデルを製品に合わせた設定の変更や修正、パラメータ適合を行い、ECUに搭載される制御モデル全体を制御仕様として仕上げることが目的になります。

全く新しい製品開発でなければ、類似製品を使って差分開発のベースとなる制御モデルとすることができます。開発する製品に適用する新規制御モデル部品の追加や、既存部品との交換を行って開発する製品の制御モデルを構成します。

制御モデルとHILS検査シーケンスや評価データを紐付けてデータベース化されていれば、検査の自動化が容易となります。また、複数のHILSを使うことで、派生機種も含めた同時並行検査の自動実行も可能であり、評価時間を大幅に短縮することができます。
制御モデル開発のイメージ
次回はBSWについて解説します。

筆者紹介

斗納 宏敏(とのう ひろとし)

入社時は電気系エンジニアでしたが、数年間はエンジン実験や試験走行が主な仕事でした。その後、制御プログラム開発を担当している時にデバッグ用にシミュレータを開発しましたが、入社時の経験が大いに役立ちました。今では仮想開発環境が一般的となりましたが、実物を使った実験をする事がMBDにおいても重要だと考えています。

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