GAIO CLUB

2004年02月04日

これからの技術立国「日本」に求められるもの 組み込みエンジニアの育成を考える

GAIO CLUB 特集
GAIO CLUB【2004/2月号】
これからの技術立国「日本」に求められるもの
組み込みエンジニアの育成を考えるケータイ、自動車、デジカメなどを生んだ日本の技術の強みを維持するには?

中国、アジア、欧米のモジュール型技術

現在、全世界で販売されている電子製品の多くは、中国、東南アジアで生産されています。ハードウエア製造の分野では、労働力の確保、賃金、維持コストなどの面から、これらの地域以上に生産性、コストメリットを得ることは難しくなっています。

ソフトウエア生産を考えた場合でも、OS、データベース、サーバーなどソフトウエア技術の基幹となるもののほとんどは、欧米で生まれたものです。

このように、1つの専門分野にフォーカスした技術、「モジュール型技術」の分野では、日本は、中国、アジア、欧米に敵わないのが現状です。

日本の得意な技術アーキテクチャ

最近話題になった日本発の技術の1つに「μITRON」OSがあります。マイクロソフト社との提携の記事を、新聞で見かけた方も多いことでしょう。これもソフトウエア技術ではありますが、組み込み系と言われるハードウエアとの連携を目的としたものです。日本国内の携帯電話、家電製品の多くは、このOSを採用しています。

日本は、このような組み込み機器の分野では、携帯電話、デジタルカメラなど、キラーアプリケーションとなる製品を多く生み出しています。これは、1つの分野にフォーカスして新しい基幹技術を生み出すと言うよりは、既存の複数の技術を組み合わせてシステム化する技術です。これは「インテグラル型技術」と呼ばれており、この分野では、日本は間違いなくトップの座を占めているでしょう。

これからの日本に求められるもの

ハードウエア製造やソフトウエアの基幹技術では、日本は他国に敵わない状況となっており、この分野を伸ばして世界のトップに立つことは難しいでしょう。ならば、中国、アジア、欧米が得意としない技術「インテグラル型技術」を伸ばして、複数の技術がシステム化されたキラーアプリケーションを創出することこそが、これからの日本に求められています。皆様がご活躍の分野「組み込み技術分野」は、まさしく、日本が得意とする分野なのです。

組み込みエンジニアに求められる技術

組み込み技術とは、ハードウエアとソフトウエアが密接に関連したシステム技術です。組み込まれるマイコンで動作するソフトの役割は、周辺のハードウエアを制御して、システムを作り上げることになります。

組み込みエンジニアは、通常、「ソフト屋」「ハード屋」と言われるように、別の部署に属しているのがほとんどですが、どちらの場合も、これらの両方の技術力、知識が必要とされます。

最近、携帯電話開発など、多数のエンジニアを必要とする製品開発では、PC系UNIX系のアプリケーション開発エンジニアを採用している例も少なくありませんが、組み込みソフトは、Windows系のC/C++言語開発とは毛色が異なり、ハードウエアの知識を必要とするため、「即戦力」と成り得る人材は数少ないようです。

「現場で先輩の指導を仰ぐ」? 新人教育で最初の方向付けを

組み込みソフト開発エンジニアの新人教育においては、C言語教育のようなソフトウエア基礎講座だけでは全く不十分であり、「新入社員教育」のような最初の場において、組み込み技術者として成長できるように、方向付けをしっかりと行うことが必要です。

配属されてから、「先輩の指導を仰ぐ」と言う方法もあるでしょうが、これは時間効率が悪い場合がほとんどです。設計や生産の現場に入ってから、組み込みに関する基礎技術を学ぶ機会を得るのは難しいでしょう。最初の「新人教育」において、方向付けを明確にさせておくことこそが、「即戦力」を持つエンジニアに早く成長させるためのポイントです。

影響力の大きい最初の教育講座

筆者は1987年に家電メーカに就職しましたが、新人教育の教材は「8085ボードマイコンキット」でした。組み込み系マイコンに触れた最初の経験でしたが、このときの講座やキットを利用した自由課題の内容は今でも覚えています。技術内容としては、今や取るに足らないものでしょうが、全く経験のない時期に行われる教育の影響力は、想像以上に大きいものです。

この時期に、ソフト/ハード両面に渡る最新の技術要素(C/C++、CPU制御、システム構成、TCP/IP、センサー、AD/DA、画像処理など)の基礎知識を与えて、組み込みエンジニアに必要なものが何かを見定めさせておくことが、現場に入ってからの成長を促すものとなります。

個人の知識レベルに合わせた教育講座のカリキュラム

通常の新人教育では、座学や実習など工夫をこらしたものが行われているようですが、1つ問題となることが、全ての新人に対して同じ教育が行われていることです。これでは、スキルの高い人材にはもの足らず、低い人材には難しいと言った不都合が生じます。

教育にかかるコストや準備時間の理由から、同じカリキュラムにならざるを得ないのかも知れませんが、新人全体の知識レベルの底上げを計り、優秀なエンジニアを少しでも早く即戦力に育てたいのであれば、各人のレベルに合わせた教育カリキュラムを作るべきです。

その1つとしては、講座の最初に知識レベルを計る「実力テスト」を行い、その結果に基づいて3段階程度のグループに分ける方法があります。ガイオが行っている「教育講座サービス」においても、スキル別のカリキュラムを設けていますが、この結果、全員が各人のレベルに合わせたスキルアップを得ており、結果として、新人全体の知識レベルの底上げが達成されています。

最新の技術を盛り込んだ教材

教材についても、その時代に合わせたものを選択する必要があります。まさか、今の時代に、筆者が経験した「8085のアセンブラマイコン」ではないでしょう。これも基礎には違いないですが、優秀な組み込みエンジニアの卵を刺激するには、相当な技術を詰め込んだキットを考えるべきです。

ガイオの「教育講座サービス」においては、「次世代教育キットカー」を使用しています。車のモデルの上に、現在主流のARMマイコン、リアルタイムOS、様々なインタフェース、LSI技術、メカ制御技術を詰め込んでいます。

これは、技術要素をてんこ盛りにしたようなキットですが、各人の「実力テスト」による知識レベルに合わせて、どこをどう使って実習するかのバリエーション作りが容易であるため、多数の新人を教育する場合でも、自由課題の教材として非常に使いやすいキットです。

最後に

この春の新人に対する教育はどのようにお考えですか?新人教育は、この先のエンジニアの成長に大きく影響します。また、早く即戦力となるエンジニアに育成することは、開発プロジェクトの効率化、コストダウンにつながります。この機会にお考え下さい。弊社でも、ご相談をお受けしております。

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