2004年08月04日
MPEG動画像ビットレート変換技術「トランスコーダ」 Blackfinプロセッサへの適用例を紹介します
GAIO CLUB 特集
GAIO CLUB【2004/8月号】
MPEG動画像ビットレート変換技術「トランスコーダ」BLACKfinプロセッサへの適用例を紹介します
~ トランスコーダ方式の再エンコード方式に対する優位性 ~
今回は、ガイオのパートナーである「株式会社メディアグルー(敬称略)」より、アナログデバイゼズ社製プロセッサ「BLACKfin」上で動作するコーデックソフトウエアに関する寄稿を頂きました。本コーナーでは、MPEGストリームのビットレートを変換する「トランスコーダ」を例に、BLACKfinプロセッサへの適用例を紹介致します。
※本稿は、株式会社メディアグルーによる寄稿を元に、ガイオが加筆を行い記事化したものです。
トランスコーダとは?
近年のマルチメディア情報ネットワーク環境は、伝送帯域やプロトコル、処理性能の異なるネットワーク、サーバシステム、端末などが相互に接続されてマルチメディアコンテンツをスムーズにやりとりできることが望まれています。ここで言うトランスコーダとは伝送帯域の異なるネットワーク間でのビットレート変換のみならず、異なる符号化方式(MPEG-2、MPEG-4など)間でのメディア変換処理技術を含めて”トランスコーダ”と呼んでいます。
ビットレート削減トランスコーダ
図1には単純なビットレート削減を行うトランスコーダの原理を示します。
図1ではMPEG-2のシステムストリーム(オーディオとビデオデータが多重化されたストリーム)をビットレートの低いストリームに変換する過程を示しています。まず多重化されたシステムストリームからオーディオストリームとビデオストリームを分離します。ビデオストリームはオーディオに比べてデータ量が非常に大きいので、分離されたビデオストリームに対してビットレート削減処理を行います。図の例では10Mbpsのビデオストリームを6Mbpsにまでビットレートを削減しています。削減後のビデオストリームは再びオーディオストリームと多重化されてシステムストリームとして出力されます。こうすることで十分な帯域が確保できないネットワーク上で同じコンテンツをやり取りすることが可能となります。
分離・合成トランスコーダ
分離・合成トランスコーダとは、動画像を階層符号化する技術の1つです。分離トランスコーダは、前述のビットレート削減トランスコーダの拡張版で、元画像のMPEGストリームを、再合成が可能な形で低ビットレートの基本ストリーム(Base Stream)と差分ストリーム(Enhancement Stream)に分離するものです。合成トランスコーダを用いると、分離された2つから、元のMPEGストリームを復元可能です。
図2に、「分離・合成トランスコーダ」の原理を示します。
基本ストリームはビットレートが削減されているので、比較的帯域の限られたインターネットや専用線を使って伝送できます。また、基本ストリームは前述のビットレートを削減されたストリームと同じですので、ビットレートが削減された分の品質は劣化しますが、通常のMPEGデコーダで再生することが可能です。
一方、分離の時に生成される差分ストリームは、ストリームそのものが差分情報しか含まないため、それをデコードして映像としてみることはできません。しかしこの差分ストリームをCDやDVDなどの記録メディアや別なネットワークにて伝送しておいて、基本ストリームと合成してからデコードすると、オリジナルのストリームの品質とまったく等価な品質の映像が得られます。
この技術により、配信先に合わせて、低画質・高画質を使い分けた配信が可能になります。
再エンコード方式との比較
現在の多くのシステムでは、動画像のビットレート変換を行うのに、一旦画像をデコードしてから再エンコードを行う方法が用いられています。
再エンコード方式によるビットレート変換では、MPEGストリームを一旦デコード処理をしてデジタルビデオデータに戻します。この過程でデコード時にフレームバッファを必要とするため、遅延が発生します。デコードされたデジタルビデオデータを異なるビットレート(図の例では8Mbps)で再エンコードする場合にも、エンコード処理のためにフレーム単位のバッファ遅延が発生します。したがってこの方式では6~10フレーム時間(200~300msec)程度の遅延時間が発生します。また、一旦デジタルビデオデータに戻して再エンコードする過程で画質も劣化します。
一方、トランスコーダによるビットレート変換では、ストリームをビデオデータにまで戻す必要がなく、ブロック単位での再量子化処理によってビットレートの変換が可能となります。したがって遅延時間についてもバッファリングされるブロック(マクロブロック:16×16程度)の遅延時間に抑えることができます。処理に必要な演算量も再エンコード方式に比べて非常に少なくて済むため、結果として消費電力も少なくて済みます。
表2にBLACKfinプロセッサ(BF533@600MHz)に実装した場合のトランスコーダの所要クロック数(MIPS値とほぼ等価)を示します。
また、表3にBLACKfinプロセッサ(BF533@600MHz)に実装した場合のトランスコーダ製品の消費電力を示します。デコーダについては他社のASIC製品に比較して約半分ほどの消費電力でD1、30fpsのMPEG-2ビデオデコード処理を実現できます。
まとめ
本稿では、動画像ビットレートの変換技術であるトランスコーダと、BLACKfinプロセッサへの実装についての紹介を致しました。株式会社メディアグルーでは、BLACKfin向けのソフトウエア製品として、MPEG-2/MPEG-4ビデオトランスコーダ、エンコーダ、デコーダを提供しています。製品の詳細につきましては、下記までお問い合わせ下さい。
株式会社メディアグルー DSPミドルウェア事業部
〒169-0072東京都新宿区大久保2-4-12新宿ラムダックスビル8階
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筆者紹介
花村 剛(はなむら つよし)氏
株式会社メディアグルー
取締役・最高執行責任者 工学博士