GAIO CLUB

2005年09月02日

組み込みソフト技術者のための基礎知識講座 微小な無線チップでモノを識別する「RFID」技術とは

GAIO CLUB 特集
GAIO CLUB【2005/9月号】
組み込みソフト技術者のための基礎知識講座
微小な無線チップでモノを識別する「RFID」技術とは
~ バーコードに替わり期待されるこれからの識別タグ ~


皆様は「RFID」と言う技術用語をご存じでしょうか?これは、ID情報を埋め込んだタグ(LSIチップ)から、無線で情報をやりとりする技術全般のことです。JRで使われている「Suica」「ICOCA」を思い出せば、分かりやすいかもしれません。

本特集では、組み込み技術者の基礎知識として、このRFID技術について解説します。また、ガイオが関わるRFIDを使用した開発例について説明します。

RFIDとは何か?

RFIDとは、Radio Frequency Identifica-tionの略で、本来は、電波を利用して、ID情報を埋め込んだタグから、情報を無線によってやりとりする技術全般の総称ですが、最近では、ICチップを使用した非接触認証技術を意味するものとなっています。RFIDはほかにも無線ICタグ、無線ラベル、非接触IC、RFタグなどさまざまな呼ばれ方をしていますが、一般には、「RFID」を使うことが多い様です。

RFIDシステムの概要

RFIDのシステムは、「RF(無線)タグ」と「リーダー」によって構成されます。RFタグには小容量のデータを書き込むことができ、これをリーダーで読み取ることで、RFタグが取り付けられている物品を識別するのが主な利用方法となります。

このRFタグは、従来は、複数の電子素子が乗った回路基板で構成されていましたが、最近は、小さなワンチップのICで実現できるようになってきました。これはICタグと呼ばれ、そのサイズからゴマ粒チップと呼ばれることもあります。

電池の要らないパッシブタグ

素朴な疑問として最初に上がるのが、ICタグを駆動する電源の問題です。RFタグには、「パッシブタグ」と「アクティブタグ」があり、このうち、パッシブタグは、リーダからの電波をエネルギー源として動作し、電池を内蔵する必要がありません。タグ内部に整流回路が内蔵されており、タグリーダからの電波を整流して直流に直し、それを電源として、ICが動作する仕組みになっています。

RFIDに期待が高まっているのは、このパッシブタグが非常に安価(10円以下)生産できる見込みが出てきたことが大きな要因です。

通常、リーダからの電波は、プリアンブル(フレームの先頭に位置するクロック同期のための、1と0との繰り返し信号)に続き、コマンドをAM変調、FM変調、PM変調などで変調したものが続きます。この後に、さらに無変調のキャリアが続きます。

プリアンブルの部分で、ICの初期動作に必要なだけの電源エネルギーが蓄えられ、その電力でコマンドbit列を復調して解釈し、無変調部キャリアの部分で反射波に返答を乗せてリーダーに情報を返すような動作を行います。

パッシブタイプのタグでは、必ずリーダからの送信が始めにあって、タグはそれに応えて情報を返すような動作シーケンスとなり、タグから自発的に情報を出すことはありません。Suicaなどのカード形態のものは、このパッシブタイプです。

自ら電波を発するアクティブタグ

アクティブタグは、電池を内蔵したタグです。自ら電波を発信でき、通信距離を長く(10m~100m以上)取ることができます。定期的に情報を発信するタイプ、センサーを内蔵してその変化があったときに発信するタイプなどがあります。

従来のバーコードとの違い

物品の種類を認識するタグとして最も普及しているのが、バーコードです。RFタグは、このバーコードと対比して語られることが多くあります。一見すると、利用用途は違わないようにも見えますが、どの様なメリットがあるのでしょうか?

読み取り範囲が広い

バーコードは、バーコードリーダが読める位置に、人間が意図的に持ってこなければ読めませんが、RFタグは読み取り範囲が広く、配置方向も自由であるため、おおまかな位置決めで読むことが可能です。これにより人の作業が省力化されます。店頭のレジでの商品確認を思い出して頂ければお分かり頂けると思います。

一度にたくさんのタグが読める

RFタグは、数10ms~数100msでひとつのタグを読むことが出来ます。また、多くのタグが密集して配置されていても、それぞれを見分ける技術(衝突回避)が開発されていいます。例えば、スーパーのレジで、1つ1つの商品をカゴから取り出さなくても、1度にカゴの中に入っている商品を確認することも可能になります。

書き込みが可能

バーコードは印刷物なので変更できませんが、RFタグは書き込みが可能なものもあります。流通過程の履歴情報などを書き込むことで、新たな利用方法が期待されています。

見えなくても読める

RFタグが目に見えない隠れた位置にあっても、タグ表面がホコリ、泥などで汚れていても読み取り可能です。このため、バーコードよりも広い用途が期待されています。

RFIDの誤解しやすい点や問題点

RFIDのシステムで誤解されやすいのが、内蔵している情報量についてです。例えば、野菜にRFタグを付ける場合、野菜の生産方法や農薬の使用状況などのさまざまな情報(トレーサビリティ情報)がタグ自体に保存されることはほとんどなく、RFタグに記録されているのは、個体を識別する情報のみであることです。

トレーサビリティ情報などの、本来参照したい情報については、個々の識別情報に対応したデータベースを構築し、これを参照する仕組みになります。この点については、現在広く使用されているバーコードシステムと、本質的に同じです。

RFIDの情報と、データベース情報のひも付けについては全くユーザ側からは見えない部分であることから、その信憑性についてどのように保証するかという点は、重要な問題となります。

最近ではRFタグに搭載される記憶素子の容量と機能(読み書きなど)は増加傾向にあり、トレーサビリティ情報が直接記載されるケースもあるため、それらを不正に組み込まれた場合は個人情報の漏洩につながる可能性が出てきます。

プライバシーの侵害など、問題点としては例えば、

・タグが付いた服を着て街を歩けば、その人がどんな素材で、どんな価格の物を購入したのかが周辺に判ってしまう。
・所持品が紛失した場合は所在を調べるのに役立つが、個人が持ち歩けばその個人の行動経路も第三者に知られてしまう。
・ 意図的に個人や物品に、本来とは異なるデータを入れたタグをつけることで、偽物と本物の識別が難しくなる。


などが上げられます。

期待されるRFIDの用途

RFIDの技術を使うと、従来では考えられなかった新しい用途が期待されています。

流通

サプライチェーンマネジメント(SupplyChain Management)で期待されています。これは、工場で生産した段階で製品にタグを貼り付け、その後の配送ルートで物品の動きを追跡するものです。例えば、コンビニでコーラが1本売れたら、コーラ工場での生産数を1本追加する、あるいは、今こちらの倉庫に在庫が多いからこっちから配送しよう、といった生産の合理化が可能になります。

これは現状でも、バーコードにより実現されているシステムですが、RFIDの技術を使うことによりIDの読み取りが自動化され、人間がバーコードリーダを操作するという手間がなくなり、効率がさらに向上すると期待されています。

履歴管理

RFタグには書き込みが可能なので、物品の流通過程で、その物がどこを通って、どういう加工をされて、 どこに出荷されたか、といった履歴情報を、移動、加工の都度、記録することが出来ます。

これにより、例えば牛肉の産地や生産者、賞味期限を記したり、狂牛病のBSE問題を管理したり、ブランド品の真贋判定をより確実にしたり、といった用途が考えられています。

物品管理

図書館やビデオライブラリーなど、 物品が大量にあって、 それを管理する必要がある場所での利用が期待されています。いつ、どこで、だれが、その物品をどこへ移動させたかを自動的に認識できるようになります。図書館の貸出、返却を自動化したシステムは、一部で、既に実用化されています。

プレゼンス管理

人が今どこに居るのかという情報を、プレゼンス情報と言いますが、これは、今後のビジネスで重要視されているものの1つです。例えば、会社内で社員がRFタグを常時携帯することにより、会議室、本人の机、外出中、といった居場所の情報を、社内で瞬時に把握できるようになります。

センサーネットワーク

RFタグにセンサーを場所に取り付けて、そこから包括的な全体情報を抽出することで、他の情報を引き出そうという試みが考えられています。例えば、傘にRFタグとセンサーを取り付け、 傘が開いているかの多数の情報を集計することで、 その地域での降雨情報を引き出すような使用方法です。

RFIDシステム開発例

ガイオでも、RFIDを応用した物品管理システムを提案、納入しています。その1つが在庫管理システムです。これは、PCを使用しない組み込み型のRFIDリーダー収集端末(NECコンピュータテクノ製 MRB-BOX)を使用し、工場、倉庫などでの物品在庫管理を自動化するものです。

倉庫の物品にパッシブ型のRFタグを付けておくだけで、倉庫の出入り口に設置したタグリーダーにより、物品の入出庫状況をチェックするものです。CDショップの万引き防止用に、出入り口に設置されたゲートと同じような運用形態です。

この方法は、倉庫内のどこに物品があるかは管理されませんが、在庫数は確実に管理でき、設置コストも最小ですみます。リーダー収集端末からの情報は、在庫管理サーバーに送られ、このデータは無線LANを使用して、ハンディターミナルから参照できるようになっています。

また、その発展型として、各棚にRFIDのリーダーアンテナを設置すれば、倉庫内のどこに物品があるかの管理を自動化することも可能です。

さいごに

RFID タグは、 米国では既に、 米国防総省 (DoD)や米ウォルマート・ストアーズをはじめとした大手ユーザー企業が、IC タグ導入を義務付ける動きを見せています。RFID機器開発の必要性は、これから急速に伸びてゆくと予想されています。 RFIDの機器は、 長時間稼働、 長期信頼性の確保などの問題から、ファンを必要とするCPUを持つPCではなく、組み込み型のRFID 機器が要求されています。

日本国内でも、RFIDは展示会などで多く見かけるようになりました。 今後の動きに注目したいところです。

参考文献:フリー百科事典『ウィキペディア (Wikipedia)』http://ja.wikipedia.org/wiki/RFID

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