GAIO CLUB

2005年01月01日

「ブラザー工業 ラベルライターのHMI設計」についての事例紹介

GAIO CLUB 特集
GAIO CLUB【2005/1月号】
ブラザー工業ラベルライターP-touch(ピータッチ)18R
プロトビルダーによるHMI設計ユーザー事例紹介します
~静かだった企画会議を一変・機能仕様書の標準化を実現~


今回は、ブラザー工業(株)パーソナル・アンド・ホームカンパニー開発製造部(敬称略、以下同様)のご協力を頂き、ラベルライター「P-touch 18R」の製品仕様設計の方法を取材させて頂きました。本特集では、HMI設計ツール「プロトビルダー」を使用した実際の設計フローと、製品HMI設計工程の改善点などをまとめさせて頂きます。

ラベルライターP-touch18R

今回取り上げさせて頂いた対象の製品は、ラベルプリンタです。オフィスの書類、棚などのラベルとして、広く用いられており、使ったことのある方も多いと思います。ポータブルの小型機器ですが、テープへ印字するフォントのサイズ、種類の選択や行数などを細かく指定できたり、最近では、オリジナルのイラスト画を入れたテープを作成できたりと、内蔵する機能は非常に多く、複雑になっています。
このラベル作成のための表示インタフェースには、ブラザー工業製の「P-touch 18R」の場合、128×48(ドット)のモノクロフルドット液晶が使用されていますが、表示できる文字の行数は、せいぜい3行程度であり、複雑な機能をより使いやすく表現するためには、HMIを如何に設計するかが、商品の価値や差別化を図る大きなポイントとなっています。
  • ブラザー工業では、より使いやすいインタフェースを設計することと、開発のための分かりやすい仕様書を作成することの2つを狙いとして、プロトビルダーを利用したHMI設計を行っています。

P-touch18Rの仕様設計フロー

次の図は、商品企画からソフト設計へ機能仕様書が渡るまでのHMI設計の工程を示しています。商品企画の担当者から、A4の数枚にまとめられたスペック表がHMI設計のグループに提示されてから、大きく3つのフェーズで、機能仕様が設計されています。

1. HMI基本仕様の設計

最初のフェーズは、基本仕様の設計です。仕様設計グループでは、商品企画部からの要求スペックを元に、機能の構造化を行い、各機能モードの表示画面イメージ画を作成します。次に、プロトビルダーを使用して、「紙芝居」ベースの単純な基本仕様モデルを作成します。この基本仕様モデルを使用して、ユーザビリティテストが行われます。

2. 仕様レビュー会議と基本仕様決定

次のフェーズでは、基本仕様の決定が行われます。仕様設計グループで作成したHMI基本仕様モデルを使用して、営業、開発、品質保証など、開発に関わる各部署を招集した仕様レビュー会議が開かれます。ここでは、プロトビルダーの試作モデルを元に、具体的な機能内容や操作性の確認、他部署からの意見収集などを行い、基本仕様の決定が行われます。海外モデルの場合には、言語をローカライズしたモデルをプロトビルダーで作成し、海外販社への仕様の確認、合意を得るために使用しています。

3. 機能仕様書出力を考慮した詳細モデル設計

最後のフェーズでは、決定した基本仕様を受けて、ソフト開発部隊やその他部署へ提出する機能仕様書を作成します。プロトビルダーで実際の詳細機能をモデリングすると共に、プロトビルダーの仕様書作成機能を利用した仕様書を作成しています。

詳細機能モデルと仕様書出力がほぼ完了した時点で、再度確認レビューが行われ、調整後に最終的な機能仕様として、各部署に発行されます。ただし、一部の開発のために、仕様書を正式発行する前に、プログラマに情報を公開する場合もあります。

ユーザビリティ評価を取り入れた基本設計

  • 最初のフェーズでの基本仕様設計では、使いやすさ、分かり易さに対する評価も行われています。最大3行の小さな表示画面の中で、機能設定や印字文字作成などをどのように表現するかがポイントとなります。メニュー階層の深さ、印字フォントなどパラメータの設定方法などについて、プロトビルダーのモデルを動作させながら、実際のインタフェースが検討されます。
    このフェーズは、「ユーザビリティテスト」も盛り込まれています。特に、操作の分かり易さのポイントとなるメニュー構造について、いくつかのHMI案をプロトビルダーでモデル化し、社内の被験者や、社外から募集したモニターを対象に体験テストを行うことで、インタフェース採用の決定を行っています。

    例えば、「印字フォントの種類」を選択する操作画面では、「書体」のメニューにカーソルを合わせて「確定」キーを押して、次の書体候補切り替え画面に移る階層型の案と、1つの画面の中で、上下キーで「書体」などのメニュー選択、左右キーで書体候補の切り替えとする1階層型の2つの案が作られています。被験者テストの結果、「上下左右」キーの使い分けに若干の慣れが必要だが、1階層型の方が直感的で分かりやすいという結論になったようです。

静かだったレビュー会議が一変

プロトビルダーを使用する前は、MS-WORDで作成した画面の遷移や仕様の内容をワープロ書きした書類を元に、基本仕様レビューが行われていました。
この方法では、製品イメージがつかみ難く、これを元に関係者に意見を求めても、「よく分からない」「意見の出しようがない」が大半の反応で、改善要求などの意見は数少ないものでした。担当者は、「とても静かな企画会議でした」と過去の企画会議を振り返っています。
プロトビルダーの動作モデルをレビュー会議に持ち込んでからは、実際に動く製品イメージが目の前に提示されるため、他部署の反応や要求、意見が活発に出てくるようになり、最終的な仕様の合意を得るための時間が非常に短く、効率化されています。

アイデアを直ぐに絵にできる仕様作成メンバーのスキル

  • この取材を通じて感じたブラザー工業での、プロトビルダーを使用したHMI設計成功のポイントは、表示画面のデザイン画を仕様設計グループのメンバー自身が作成していることです。プロトビルダーは、仕様設計者が考えた仕様を具現化するツールではありますが、モデルの構成には、製品のイメージ画ビットマップが必要です。
筐体自体のデザイン画や最終的な実装ビットマップは、他部署の専任デザイナーが作成しますが、HMI仕様を案として作成していく段階で必要なLCD表示のビットマップは、その都度、仕様設計グループのメンバー自身が作成しています。
「アイデアを直ぐに絵にできる」グループのスキルが、短時間でプロトモデルを作成し、短い開発工程の中でレビューを繰り返す作業を、より円滑に進める原動力となっているのではないでしょうか。

プロトビルダーの出力仕様書で書式を標準化

ブラザー工業がプロトビルダーを採用した大きな理由の1つが、プロトモデルから仕様書を出力する機能を利用して、仕様書作成を効率化し、書式を標準化したいということでした。
P-touch 18R の仕様設計グループでは、機能仕様書の書式を標準化する目的で、プロトビルダーが出力する仕様書を詳細仕様書として使用しています。
プロトビルダーは、プロトモデルに製品状態として定義した画面を使用して、最小限の工数で状態遷移図、画面リスト(ステートリスト)、テキストページなどを仕様書として出力する機能を備えていますが、ワープロ書きの仕様書作成と比較すると、仕様書フォーマットの自由度は低く、プロトビルダーに予め用意されているテンプレートに当てはめながら、仕様書を作成する仕組みとなっています。
しかしながら、この自由度の低さが、逆の効果として仕様書フォーマットを統一し、標準化を図る効果を生んでいます。従来ワープロ書きで仕様書作成をされていた担当の方にとっては、プロトビルダーでの仕様書作成は思い通りにならない部分もあり、最初は不便に感じることが多くあった様ですが、現在では、プロトビルダーの機能不足をカバーする独自の工夫で、使いこなして頂いています。

さいごに

今回紹介させて頂いたラベルライターのHMI設計は、ガイオがプロトビルダーの製品コンセプトとして掲げる内容を、実務で運用し効果を上げて頂いた、非常に良い事例の1つです。今後も、貴重なご意見を頂きながら、HMI仕様設計のデファクトツールとして、改善を重ねて行きたいと考えております。
■取材協力・監修
ブラザー工業株式会社 パーソナル・アンド・ホームカンパニー開発製造部
石田美菜子氏、山本直美氏、吉村奈子氏、坪田慶子氏、吉村彩子氏

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